朝の訪問で、ベッドから車いすへ一回。
昼に起こして、夕方にまた戻す。
その日はなんともなかったのに、翌朝、靴下をはこうとして固まる。
訪問介護で腰を痛める方の多くが、この順番です。
特別に重い方を持ち上げたわけではありません。
低いベッドに向かって、前かがみでひねる。
これを一日何回も繰り返したことのほうが効いています。
腰痛は根性で防ぐものではない、というのが今の考え方です。
国の指針も、その立場に変わっています。
国の指針は「原則として人力で抱え上げない」
厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」には、はっきり書かれています。
全介助が必要な方には、リフト等を積極的に使う。原則として人力による人の抱上げは行わせないこと。
ここで大事なのは、これが個人の心がけではなく、事業主に向けた指針だという点です。
用具をそろえるのも、作業のやり方を決めるのも、本来は事業所側の役割になります。
指針が挙げている用具は、だいたい次のとおりです。
| 場面 | 使う用具 | ねらい |
|---|---|---|
| 全介助の移乗 | リフト(床走行式・据置式など) | 持ち上げる動作そのものをなくす |
| 座位が保てる方の移乗 | スライディングボード | 持ち上げずに横へすべらせる |
| 立位が保てる方の移乗 | スタンディングマシーン | 引き起こす動作を減らす |
| ベッド上の移動・体位変換 | スライディングシート | 引きずらない。不自然な姿勢を防ぐ |
| あらゆる介助の前 | 電動ベッドの高さ調整 | 前かがみにならない高さまで上げる |
正直に言うと、在宅ではリフトまで入っている家は多くありません。
ただ、スライディングシートとベッドの高さ調整は、今日からできます。
在宅でいちばん効くのは、ベッドの高さです
ご家庭に伺うと、ベッドがいちばん低い位置のままのことがよくあります。
ご本人が足を下ろしやすいように、家族が下げているのです。
介助に入るときは、いったん上げる。
終わったら元に戻す。
この往復を面倒がらないだけで、腰にかかる負担がまるで違います。
目安は、自分が立ったまま前かがみにならない高さ。
腰をかがめて作業している時点で、高さが合っていません。
そしてもうひとつ。
ベッドは壁から離して、両側から入れるようにしておくと、ひねる動きが減ります。
模様替えの話になるので、ご家族と相談が要りますが、効果は大きいところです。
抱え上げが必要に見えるとき、疑うのは用具の側
「この方は全介助だから、抱えるしかない」
そう思ったときこそ、いったん止まってみてください。
私は福祉用具の仕事もしているので、逆側から見えることがあります。
抱え上げが必要になっている場面の多くは、用具が合っていないか、足りていないかのどちらかです。
よくあるのは、この3つ。
1つめ。ベッドの高さが変えられないタイプだった。
介護ベッド(特殊寝台)は福祉用具貸与の対象です。原則は要介護2以上ですが、軽度の方も例外給付の道があります。
2つめ。車いすの位置と角度が悪い。
ベッドに対して20〜30度、なるべく近づける。それだけで移動距離が縮みます。
3つめ。手すりや介助バーがない。
ご本人が自分でつかまれる物が1つあると、こちらが支える量が減ります。
用具を足すのはヘルパーの一存ではできません。
でも、気づいて伝えることはできます。
ケアマネジャーへの伝え方(そのまま使えます)
NG例
「移乗がきついので、なんとかしてほしいです」
——気持ちは伝わりますが、動かすための材料がありません。
OK例
「ベッドから車いすへの移乗が、私一人では抱え上げになっています。ベッドの高さが変えられないタイプで、腰をかがめた姿勢になります。高さ調整のできる特殊寝台と、スライディングボードを検討していただけないでしょうか。福祉用具の方に一度見ていただけると助かります」
場面・今の状態・提案。
この3つを入れると、そのまま担当者会議の議題になります。
遠慮する必要はありません。
ヘルパーが腰を痛めて入れなくなることは、その方の生活が止まることと同じです。
自分の体のためにやること
- 訪問の前後に、静的ストレッチを短く。指針でも、作業前・作業中・終了後の実施が勧められています
- 重い荷物を持つ移動の日は、荷物の位置を体に近づける
- 健康診断は、配置時とその後6か月以内ごとに1回が指針の考え方です。事業所の実施状況を確認しておく
- 痛みが出たら、その日のうちに管理者へ伝える。「これくらいで」と黙るほど、記録が残らず不利になります
よくある質問
Q. 家が狭くてリフトは入りません。
A. 床走行式が置けない家は多いです。その場合はスライディングシートやボード、介助バーの追加で、抱える量を減らす方向に切り替えます。
Q. ご家族が「いつもこうやってます」と抱え上げを求めてきます。
A. その場で否定せず、「私のやり方だと安全に持ち上げきれないので」と自分の側の理由に置くと角が立ちません。そのうえで事業所に持ち帰ってください。
Q. すでに腰痛があります。仕事は続けられますか。
A. 続けている方はたくさんいます。ただ、我慢して同じ動きを続けるのがいちばん良くありません。医療機関の受診と、担当の組み替えを相談してみてください。
まとめ
腰痛対策は、体の使い方を覚えることだと思われがちです。
実際に効くのは、ベッドの高さを上げる、用具を足す、抱え上げをやめるという環境の側でした。
そして、それは事業所とケアマネジャーに動いてもらう話でもあります。
まずは次の訪問で、ベッドの高さを一段上げるところから始めてみませんか。
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