「ついでにこれもお願いできる?」
玄関で言われて、断れずに引き受けたことがあります。庭の草むしりでした。
次の訪問に遅れ、事務所に戻ってから、あれは断るべきだったと気づきました。
訪問介護で難しいのは、できないことを覚えることではないと思っています。
目の前の人に「できません」と言うことのほうが、ずっと難しい。
私も最初はそうでした。今回は、線引きそのものと、角を立てずに断る言い方をあわせてまとめます。
まず、なぜ断らないといけないのか
ここが自分の中で腹落ちしていないと、断るときに迷いが出ます。
訪問介護は介護保険のサービスです。財源は保険料と税金、そして利用者様の自己負担。
だから「その方が日常生活を送るために必要な援助」という範囲が決められています。
好意で範囲外を続けると、次のことが起きます。
- 事業所が指導や返還を求められる…実地指導で指摘されれば、介護報酬の返還につながります
- 次の担当者が困る…「前の人はやってくれた」となり、断る役目が後任に回ります
- ご本人の力を奪うことがある…できることを代わりにやってしまうと、その力は落ちていきます
断るのは、制度を守るためだけではありません。次の人と、ご本人を守るためでもあります。
できないことは、3つのグループで覚える
| グループ | 例 | 理由 |
|---|---|---|
| ①ご本人以外のためのこと | 家族の食事、家族の洗濯、来客のお茶出し | サービスの対象はご本人 |
| ②日常生活の援助にあたらないこと | 草むしり、大掃除、窓拭き、ペットの世話 | しなくてもその日の生活は成り立つ |
| ③医行為にあたること | インスリン注射、褥瘡の処置、摘便 | 資格の範囲外 |
この3つで、現場で迷う場面のほとんどがカバーできます。
①ご本人以外のためのこと
ここは、実は判断がはっきりしています。
- ご家族の分の食事を作る
- ご家族の洗濯物を洗う・干す・たたむ
- ご家族の分の買い物
- ご家族が使う部屋の掃除
- 来客のお茶出しや接待
ただ、現実には同じ洗濯機、同じ台所です。だから曖昧になりやすい。
私は訪問の最初に「今日はご本人の分だけお預かりしますね」と先に言うようにしました。
あとから断るより、先に線を引いておくほうが、お互いに気まずくなりません。
②日常生活の援助にあたらないこと
ご本人のためであっても、範囲を超えるものはできません。
- 草むしり、庭木の手入れ、花への水やり
- ペットの世話(散歩、餌やり、トイレの掃除)
- 大掃除、窓ガラス磨き、床のワックスがけ
- 家具の移動、模様替え、電球交換をこえる修繕
- 正月やお祝いなど、特別な手間をかけた調理
- 金銭の管理、預金の引き出し、契約の代行
共通しているのは、それをしなくてもその日の生活は成り立つという点です。
ここは「やってあげたい」と思ってしまう場面が多いところでもあります。
頼むほうも悪気はありません。困っているから頼んでいるだけです。
だから断って終わりにしないほうがいいと思っています。代わりの行き先を一緒に探す。
- 草むしりや大掃除 → シルバー人材センター、便利屋、自費のサービス
- ペットの世話 → ペットシッター、地域で手伝っている方
- 買い物の付き添い → ケアマネジャーに相談して計画に入れられるか確認
「できません」だけで終わると、次から言ってもらえなくなります。それが本当は危ないところです。
③医行為──ただし例外があります
ここは気持ちで判断してはいけない領域です。
原則としてできないこと
- 注射(インスリンを含む)
- 褥瘡(床ずれ)の処置
- 摘便
- 薬の量を自分の判断で調整すること
一方で、条件を満たせばできることもあります。
| 行為 | 条件 |
|---|---|
| 体温・血圧の測定 | 状態が安定していること |
| 軟膏を塗る・湿布を貼る | 褥瘡の処置は除く |
| 内服の介助 | 一包化された薬の内服を手伝う場合 |
| 爪切り・やすりがけ | 爪と周囲の皮膚に異常がなく、糖尿病等の専門的管理が不要な場合 |
| 口腔ケア | 重度の歯周病等がない場合 |
| 耳垢の除去 | 耳垢塞栓を除く |
| ストーマのパウチにたまった排泄物の廃棄 | 肌に接着したパウチの取り替えは除く |
また喀痰吸引と経管栄養は、所定の研修を修了して登録された介護職員(認定特定行為業務従事者)であれば、一定の条件のもとで行えます。
迷ったら、その場で判断せずサービス提供責任者に連絡する。ここは「たぶん大丈夫」で進めていい領域ではありません。
断り方は、3ステップで組み立てる
言い方だけで、伝わり方はかなり変わります。私はこの順番で言葉を作っています。
- まず受け止める…否定から入らない。「困っておられますよね」
- 理由を「制度」に置く…「私の判断ではできない」ではなく「決まりでできない」
- 代わりの道を示す…「代わりにこうできます」「担当に相談してみます」で終える
いちばん大事なのは2つ目です。
「私はやってあげたいのですが、決まりで」と言えると、関係を壊さずに済みます。
言い換え例:NGとOK
NG「それはできません」(理由がないと、冷たく聞こえます)
OK「介護保険のサービスの範囲から外れてしまうので、私からはできないんです。すみません」
NG「決まりですから」(それだけだと納得されにくいです)
OK「無理にやると事業所が指導を受けてしまい、次から伺えなくなるかもしれなくて」
NG「ケアマネさんに言ってください」(突き放した印象になります)
OK「私からケアマネジャーさんに相談してみます。方法があるかもしれません」
そのまま使える例文
草むしりを頼まれたとき
「お庭、気になりますよね。ただ、介護保険では草むしりはお手伝いできない決まりになっているんです。申し訳ありません。シルバー人材センターや便利屋さんにお願いしている方もいらっしゃるので、ケアマネジャーさんに相談してみましょうか」
ご家族の分の食事も、と言われたとき
「ご家族の分もとなると、介護保険の対象外になってしまうんです。○○さんのお食事はきちんと作りますね。もし難しいようでしたら、配食サービスなど別の方法もあるので、担当に伝えておきます」
ペットの世話を頼まれたとき
「ワンちゃん、かわいいですね。ただ、ペットのお世話は介護保険では対応できないことになっていて……。ペットシッターさんや、地域でそういう手伝いをしている方がいないか、ケアマネジャーさんに聞いてみますね」
年末に大掃除を頼まれたとき
「年末ですもんね。ただ、普段のお掃除は対応できるのですが、大掃除は介護保険の範囲外なんです。いつものお掃除は今日もしっかりやりますね。大掃除は別のサービスもあるので、担当に相談してみます」
お金を預かってほしいと言われたとき
「お気持ちはありがたいのですが、お金をお預かりすることは事業所として固くお断りしているんです。私が信用されていないという話ではなくて、決まりなんです。買い物代行のときは、その都度お預かりしてレシートをお返しする形にさせてください」
金銭だけは絶対に例外を作らないでください。ご本人を守るためであり、自分自身を守るためのルールです。
それでも押し切られそうなとき
- その場で無理に決着させない…「担当に確認します」で持ち帰っていいです
- 必ずサービス提供責任者に報告する…一度断って終わりにせず、事業所として対応を決める
- 記録に残す…依頼された内容と、自分がどう答えたかを書いておく
- ひとりで抱えない…同じ依頼が繰り返されるなら、伝え方の問題ではなくケアプラン見直しのサインです
断りきれずに引き受けてしまった場合も、隠さず報告してください。
責められるべきは、報告した人ではなく、報告できない空気のほうです。
よくある質問
Q. 一度やってしまったことは、どうすればいいですか?
黙っているのがいちばん危ないです。サービス提供責任者に伝えてください。責められるより、次から線を引き直すほうが大事です。私も伝えて、次回の訪問前に説明の仕方を一緒に考えてもらいました。
Q. 「前のヘルパーさんはやってくれた」と言われたら?
その方を否定しない言い方がいいと思います。「事業所として今はこうしています」と、主語を事業所にすると角が立ちにくいです。
Q. 断ったら、クレームになりませんか?
可能性はあります。だからこそ一人で抱えないでください。断った内容はその日のうちに記録して、報告しておく。それだけで守られ方が変わります。
まとめ
- 断ることはヘルパーの仕事のうち。制度と、次の担当者と、ご本人の力を守るため
- できないのは①ご本人以外のため ②日常生活の援助を超えること ③医行為
- ただし条件付きでできる行為がある。迷ったらサービス提供責任者へ
- 断り方は受け止める→理由を制度に置く→代わりの道を示す
- 金銭の預かりだけは絶対に例外を作らない
- 同じ依頼が繰り返されるなら、ケアプラン見直しのサイン。ひとりで抱えない
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線引きを一人で背負わせる事業所と、サービス提供責任者がすぐ出てきてくれる事業所とでは、同じ仕事でも重さがまったく違います。私はここで働きやすさが決まると思っています。
「断れない」「相談しても取り合ってもらえない」は、多くの場合ヘルパー個人ではなく体制の問題です。求人票には書かれていない部分なので、間に人が入る形で実際の相談体制を確認してもらうのも一つの手かもしれません。
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まずは次の訪問で、「今日はご本人の分をやりますね」と最初に一言。そこから始めてみませんか。
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